楽譜・CD等の出版情報は筝曲正絃社ビクター伝統文化振興財団で掲載しています。

浮(うかぶ)

「行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、ひさしくとどまりたる例なし」(方丈記)人は、時として苦しい境遇に陥ることがあります。しかし、そこに永くとどまることはありません。その思いを尺八の五重奏で表現した作品です。
(1987年作曲)(尺八5)

街路樹(がいろじゅ)

都会の喧騒から私たちの心をなごませてくれる街路樹。
青山通りから絵画館エントランス広場へのイチョウ並木のビスタ。四谷見附から迎賓館へ向かってのユリノキ並木。
築地、聖路加病院前通りのカロリナポプラ並木。
原宿駅から青山通りまで続くケヤキ並木など、東京都内の街路樹で名の知られている通りを散策してみた。 
(1997年作曲)(尺八5、箏1、十七絃1)

夏雲奇峰(かうんきほう)

「春水四澤ニ満チ 夏雲奇峰多シ 秋月明輝ヲ掲ゲ 冬嶺孤松ヲ秀ル」
この題名は、東晋の詩人、陶淵明が四季を詠った詩の夏の句からの出典です。
夏は入道雲が現われて、空に珍しい形の雲を描く。
その雲の奇妙さや雄大さ、そして雲の流れを3本の長管尺八を主に尺八の五重奏でまとめてみたものである。 
(尺八5)

かえるのゴム靴(かえるのごむぐつ)宮澤賢治原作

和楽器に馴染みのない方にも邦楽に親しんでいただけるよう、宮澤賢治の童話「蛙のゴム靴」をもとに、語りと邦楽 で構成したものです。
3匹の仲良し蛙のうち1匹が、あこがれのゴム靴を手に入れ、他の2匹の蛙の妬みを受けて痛い目にあううちに3匹とも穴に落ち、最後には助けられるお話ですが、人間の欲望や妬み、傲慢などを蛙の世界に喩えた作品です。
登場する役柄それぞれに楽器を割り当てたテーマ、そのテーマの組み合わせ、合奏による情景の描写や、欲望、自慢、嫉妬の歌など、箏、十七絃、三絃、尺八に打楽器 を加えて、童話が愉快な音楽とともに表現できるように苦心しました。
峰山会創立25周年演奏会の記念作品として作曲し、舞台ではスライドによる挿絵を見ながらの企画としました。 
(2004年作曲)(語り、うた、箏2、十七絃1、三絃1、摺りざさら1、太鼓1、尺八4)

風吹く(かぜふく)

自然現象である風には四季折々の季節を感じる名前が付けられている。
菅原道真の歌にも有名な、梅の香を漂わせ春を告げる「東風」、初夏に青葉の梢を吹きぬける心地よい「青嵐」、秋の草木を吹き分けてとおる「野分」。
この三つを選び尺八で描いてみました。 
(1994年作曲)(尺八2)

郷愁(きょうしゅう)

故郷へのおもいを三楽章にまとめた尺八五重奏曲である。
第一楽章では、故郷の山々で遊んだ思い出を、第二楽章は、ふるさとを離れた孤独をあらわし、各パートの独奏から始まるため、各演奏者の個性が発揮されるところである。第三楽章では、和声の美しさを聞かせる。 
(1980年作曲)(尺八5)

呉竹三昧(くれたけざんまい)

都会の喧噪、煩雑な日々に疲れたとき、ふと自分を振り返って見る。心落ち着く静寂感に包まれた空間で、無の境地を求めて瞑想に入る。
誰も足を踏み入れたことのない竹林には、外界の人工的な音を吸収するかのごとく、恐れさえも感じる。
時おり吹き抜ける風のざわめきに、心が揺れ動く。
そんな思いを三本の尺八で描いた作品です。 
(1989年作曲)(尺八3)

高原のオブジェ(こうげんのおぶじぇ)

まだらに雪の残る5月の高原は、初夏の陽射しを受けながらも、爽やかな風が肌に心地よい季節。
美(うつくし)ヶ原高原では毎正午、アモーレの鐘が高原一帯に響きわたり、パリのモンマルトルの丘に立っているような錯覚を感じさせます。
ここの高原美術館は、高原の雄大な自然を背景に、独創的な彫刻やオブジェ、モニュメントが立ち並び、自然と芸術が融合した眺望です。
この作品群からの印象を、尺八と十七絃の二重奏に描いてみました。 
(2003年作曲)(尺八1、十七絃1)

春光楽(しゅんこうらく)

この曲は尺八の二部合奏曲で、陰旋音階を主に、荘重な感じのゆったりとした旋律で始まり、途中転調し、軽やかな和声の旋律が流れ、雅楽を思わせる響きとなります。
更に転調し、軽快な旋律の中に、最初のテーマを変奏して終わります。
春の光そのものではなく、淡い春の色を感じる情景を描いてみました。 
(1989年作曲)(尺八2)

睡蓮(すいれん)

奈良西の京の薬師寺、そのすぐ西側に「勝間田の池」とよばれる美しい大池があり、堤に佇んで東を望むと、樹々の向こうに薬師寺の金堂、西塔、東塔が北から南に並び建つのが見え、背後には緑深い若草山、春日山もみえます。
はるか西を望めば、神さびた生駒の高嶺、その生駒の山々から吹く風が、広々とした一面の野面を渡り、大池の水面に白いさざ波を立てるさまは、幾百年の昔もかくばかりかと想わせる静寂が感じられます。
その睡蓮の花咲く勝間田の池の印象を、三本の尺八と箏、十七絃の編成で、三つの章にまとめた作品です。 
(1987年作曲)(尺八3、箏1、十七絃1)

竹韻(ちくいん)

竹には、数多くの種類があります。その中でも孟宗竹、真竹、呉竹、笹竹、黒竹などから受けた印象を尺八の四重奏で表現した作品です。
曲の前半は、尺八古典本曲風の自由な間による旋律を浮き立たせ、後半は、尺八の特殊奏法である「ユリ」「ムラ息」「間」などを生かした旋律で構成されています。 
(1988年作曲)(尺八4)

竹韻Vol.2(ちくいん ぼるつー)

竹を素材とする楽器をたしなむものにとって、竹林の風景の四季の移ろいは 興味深い標題です。
自然が育んだ孟宗林の風情は、何人にも心安らぐひととき をもたらす情景で、ことに古都嵯峨野などのそぞろ歩きは詩情をそそる美しい眺めです。この竹に関する季語から「竹の秋」「竹落葉」「なけの春」を選び、季節による 竹林の色の移ろいを、尺八四重奏による三つの章に表現しました。五孔の会委嘱作品 
(1998年作曲)(尺八4)

鳰の海に(におのうみに)

鳰は、かつて琵琶湖に多く住んでいたカイツブリのことで、琵琶湖のことを古くは「鳰の海」と呼んでいました。琵琶湖の雄大さ、青く澄んだ湖、大自然の造形美を、尺八と十七絃の二重奏で三つの章にまとめたものです。日本的な旋律の中に哀愁と懐かしさを表現した作品です。 
(2000年作曲)(尺八1、箏1)

飛騨の里(ひだのさと)

飛騨南部には、温泉地として名高い「下呂」という街があり、この街の中を飛騨川が流れ、川を挟んで西と東に「歌塚」という二つの石碑があります。現在は「雨情公園」に移されておりますが、この「歌塚」に伝えられる民話を題材として作曲したものです。 
(1986年作曲)(尺八1、箏1、十七絃1)

ホツイティの丘(ほついてぃのおか)

ホツイティの丘は、南太平洋に浮かぶ面積180km2の小さな島、イースター島がある。ここは、モアイの巨人像でその名を知られ、朝焼けが美しい丘でもある。この丘には高さ5メートル、10~15トンくらいの石で作られたモアイがあり、滑稽な中に哀しいような淋しいような表情をして海に背を向けて立っている。
一斉に立ち並ぶモアイから、石切の歌や石を刻む音を想像してみた。 
(2000年作曲)(尺八5)

みちのく譚詩曲(みちのくたんしきょく)

東北の地に伝えられる生活用具や工芸品から、その地域独特の文化や振興、 人々の生活の物語を想像して譚詩曲としてまとめてみました。
「こぎん刺し」(津軽)江戸時代から農家の野良着として着用され、一針一針繊細に縫いこまれた文様に、幾何学的な美しさを感じます。
「大持橇」(山形県)長さ4メートルを超える木製の大きな橇。
大きな荷物を運ぶ道具として使われたのでしょうか、1本の貴から彫り上げた ダイナミックな刃跡に重圧感が漂います。
「いたや細工」(秋田県角館) しなやかな「いたや楓」の若木を、指で薄く割いて編み上げた盛り籠。
光の具合によって、素朴(しらき)と泥染めの灰色 が、立体模様に見えます。
「カマ神様」(岩手県南部) 台所の柱や壁の上部、竈の上にかけてある「カマガミサマ」「カマオトコ」などと呼ばれるお面です。
個性的で怒った 怖い印象を受けますが、正義の守護神として厄を追い払う霊験あらたかな神様です。 
(2003年作曲)(尺八2、箏2、十七絃1)

ラスコーの壁画(らすこーのへきが)

ラスコーの壁画は、フランスの南西部、先史時代の壁画や洞窟の遺跡が集中 するヴェゼール渓谷にあります。
約17000年前、旧石器時代の新人クロマニヨン人の遺跡で、洞窟の岩肌の凸凹を生かして猪や馬、牛などの動物が描かれています。
赤や黒、褐色などの彩色が施された、それらの動物は躍動感にあふれ、芸術性を感じさせます。
洞窟の奥深く、まるで人目を避けるかのように描かれ た壁画には、単なる装飾目的ではなく何か目的があったのかも知れません。
このラスコーの壁画から、洞窟の奥深くに生息した先史時代の新人に思いを寄せ、 新人類が何を考え、何を祈り、壁画を描いたかを想像して、竹一管の響きに託 してみました。 
(1980年作曲)(尺八1)